最近、大雨による地滑りや崖崩れといった土砂災害のニュースを目にすることが増えました。 どこか遠い出来事のようでいて、映像に映る山の斜面を見ていると、胸の奥に小さな違和感が残ります。
あの山は、本当にこんな姿だっただろうか。
ニュースではあまり詳しく伝えられませんが、災害現場の多くは、戦後に植えられたスギやヒノキの針葉樹人工林のように見えます。
山と人との関係が、いつの間にか少しずつ噛み合わなくなっている——そんな思いから、この文章を書き始めました。
なぜ日本にはスギ・ヒノキの人工林が多いのか
戦後の高度経済成長期、日本では木造住宅の建設ラッシュが起こり、大量の木材が必要とされました。
成長が早く、日本の気候に適応しやすいスギやヒノキが好まれ、「拡大造林計画」によって全国に植えられたのです。
また、日中戦争や太平洋戦争で木材は軍需物資として大量に使われ、
戦後の山は、木がほとんど無い、いわゆる“はげ山”の状態だったと、お年寄りからよく聞きます。
その木材不足を補う意味と、山を緑に戻したい、暮らしを立て直したい——そんな切実な思いが、針葉樹中心の植林へとつながっていったのでしょう。
そして現在――
それらの木々が成長し、花粉症の原因にもなっていますね。
花粉症という形で現れた影響
戦後に植えられたスギやヒノキは、現在ちょうど成熟期を迎えています。
本来であれば、伐採と再植林が計画的に行われるはずでしたが、それが進まず、
大量の花粉が飛散するようになりました。
安価な外材の輸入によって国産材の価値は下がり、50年育てた木を売っても、1本あたり数百円にしかならないと言われています。
山の手入れが行われなくなり、伐られないまま成熟したスギやヒノキが、毎年大量の花粉を飛ばすようになりました。
くしゃみや鼻水に悩まされながら、私たちは山の変化を、知らず知らずのうちに体で受け取っているのです。
人工林には「手入れ」が欠かせません
スギやヒノキの人工林は、定期的な間伐がとても重要です。
木が密集しすぎないように弱った木を切り、枝を払うことで、残った木が健康に育ち、災害にも強い森になります。
本来、山は
植林 → 手入れ → 伐採 → 再び植林
という循環で保たれてきました。
しかし現在は、
植えっぱなし → 木が密集 → 下草が育たない → 土壌がむき出し → 土砂崩れ
という悪循環が起きています。
それは、間伐には大きな手間とコストがかかるということです。
安い外材の輸入が進み、50年育てた木を売っても1本500円ほどにしかならない現状では、林業は厳しく、多くの山が放置されています。
「お爺さんは山に芝刈りに…」
そんな時代が、今では遠い昔になってしまいましたね。
静かに進んでいたその変化が、ある日突然、土砂崩れという形で表に現れてしまうのです。
森林が果たす二酸化炭素吸収の役割
※諸説ありますが、目安として
- 人1人の呼吸によるCO₂排出量:年間約320kg → 木23本分
- 自家用車1台:年間約2,300kg → 木160本分
- 1世帯:年間約6,500kg → 木460本分
森林がどれほど大切か、数字を見ると実感しますね。
人工林と広葉樹林の決定的な違い
管理されていないスギやヒノキ(針葉樹)の人工林は、根が浅く、土壌の保水力が低下しやすいと言われています。 そのため、大雨の際に土砂崩れが起きやすくなります。
一方、シイ・カシ・クヌギ・ブナ・ナラなどの広葉樹は、根を深く張り、土壌をしっかりとつかみます。
また、広葉樹の落ち葉は腐葉土となり、山全体が分厚いスポンジのようになります。
そのため大雨が降っても雨水をしっかり蓄え、川への急激な流出を防いでくれるのです。
昔の人が感じていた「山は水を育てる場所」という感覚は、こうした広葉樹の森から生まれていたのだと思います。
どんぐりの森と野生動物
クヌギやナラ、カシ、シイなどが実らせるどんぐりは、クマをはじめ多くの野生動物にとって重要な食料です。
かつての里山の雑木林は、人の暮らしと野生動物の世界の間に、やわらかな境界線を引いていました。
薪を集め、落ち葉を掃き、どんぐりを拾う。 人が関わることで森は保たれ、動物たちもまた、森の奥で静かに生きていくことができました。
その雑木林が失われた今、山と人との距離感が分からなくなり、動物たちは迷いながら人里へ降りてきているように見えます。
花粉症・土砂災害・獣害は同じ根っこにある
花粉症、土砂災害、そして野生動物の出没。 一見、別々の問題に見えますが、その根っこには「山の手入れが行われなくなったこと」があります。
山と人との距離が遠くなり、循環が途切れた結果、さまざまな形で私たちの暮らしに影響が現れているのです。
私たちにできる身近な関わり方
林野庁では人工林の伐採と再造林が進められていますが、広葉樹の森を取り戻す視点も大切だと感じます。
また、伐採した国産のスギやヒノキを使って、新築やリフォーム、テーブルや椅子などの家具、サウナやお風呂を作って日本の林業を応援したいものです。
日本の間伐材で作られた割り箸を購入しよう
しかし、新築やリフォームで国産材を使うことは簡単ではありません。
そこで、もっと割安で応援できるおすすめの方法は 国産の間伐材で作られた割り箸を購入し使用することです。
国産の割り箸は森林破壊にはつながりません。 一方、輸入される割り箸のほとんどが中国産で、中国では木材を大量に伐採しているのです。 国産の割り箸は、もったいなくはないのです。
むしろ、森林を健全に保つための大切な循環の一部なのです。
小さな行動ですぐに山が変わるわけではありません。 それでも、山のことを思い出し、関わり続ける人がいる限り、森はきっと応えてくれるはず。
どんぐりの森が戻り、山と人がもう一度、同じ時間を歩ける日を静かに願っています。

